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Toshiba Corporation

ミラノサローネにおける東芝のLEDを使ったインスタレーション

OVERTUREとはすなわち次世代のあかり文化への序曲を意味していますこのインタラクティブ・インスタレーションはLEDという新しい光源の到来に象徴される照明とあかり文化のパラダイム・シフトを表現しています

ミラノ市内トルトナ地区のとある会場薄暗い無限回廊のような空間には電球型のガラス製オブジェが約100個ほど吊るされていますオブジェの中には水が入っておりこの水の表面をLEDが上部から照らし出しますきらめく光を手のひらに持つと鼓動に似たような振動を感じることができますこのとき鼓動と連動するようにほんの少し灯りが増幅しますまた空間を歩き回ると来場者の動きを捉えるかのように近くのオブジェの灯りがふっと強くなります

© 2012 Toshiba Corporation

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テーマ: 白熱電球をモチーフとしたLED照明の表現

2009年というタイミングで東芝が欧州展示を試みた背景にあるのはLEDの事業の海外展開の本格化という大きなビジョンでした2011年の時点で欧州での白熱電球生産はほとんど停止され光源はほぼLEDに置き換わっていくことが既に見えていましたそのため2009年というのは白熱電球からLEDへの変換期にあると言えますLEDの価値を表現するようなインタラクティブな展示をという漠然としたリクエストと共にモチーフとして白熱電球のシルエットを用いたいという条件が我々に提示されたのです
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アプローチ: 灯りという企業文化の具象化

東芝社内のプロジェクトメンバーも含めていろいろな人の話を聞くうちに灯りというものが長年に渡り東芝の主力ビジネスであり企業価値でありアイデンティティであるという事実が浮き彫りになりました昔はろうそくそれがガスになりさらに白熱電球蛍光灯に進化し今日それがLEDに置き換わろうとしていますそんななか改めて灯りが私たちの日常生活において掛け替えのない存在であることに気付かされます東芝はデバイスへのこだわりがあるのではなく灯りと生活の周辺で起こる価値の変化に関心があるのではないかTakramは仮説を立てましたこうしてさまざまな関係者の思いを読み解き白熱電球に宿っている文化的な遺伝子の価値を伝えるというアプローチにたどり着きました

メッセージ: 灯り空間文明の繋がり

白熱電球を開発したエンジニアの深い知識と献身的な努力に思いを馳せる白熱電球という光源を初めて使った人々やそれによって照らされた生活…140年前に白熱電球の大量生産を開始したことが東芝の事業のきっかけになっています東芝にとってそしてもしかすると多くの人の無意識の中で電球というシルエットは単なる光源という枠を超越した特別な存在なのかもしれまあせん電球はひらめきのシンボルや照明そのものを象徴するアイコンとしての意味も持っています

技術の移り変わりの中でともすると失われてしまうかもしれないこの形状を展示の中に留めておきたいーそのような意図が無意識的に東芝のプロジェクトチームのなかにあったのではTakramは考えるに至りました

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プロジェクトの詳細

このインスタレーションの会場はミラノのトルトナ地区に位置しています120平米程の少し入り組んだ空間壁に規則的に並んでいるのはアーチ型に切り取られたミラー床に敷き詰められているのは砕いた大理石です 空間全体に吊り下げられているのは100個の電球型のオブジェですオブジェの中には水が入っており上部からLEDの光が水面を照らしますまたこのオブジェは両手で包み込むように触れることができます 人が歩くとその軌跡を照らすように電球型のオブジェに明かりがともりますさらに電球に触れると光は波打つように明滅を始めます掌の中に感じるものは光の明滅にシンクロして響く小さな鼓動のような振動です

このプロジェクトは東芝とTakram建築家の松井亮さんの三者のコラボレーションにより実現されイタリアのミラノ・サローネにて行われました 毎年行われるこのイベントは家具の見本市のほかインテリアや小物照明などの見本市も含まれていますフィエラ展示場で開催されるイベントと同時期にミラノ市街で様々なブランドが独自に行うイベントからなっていて全体を総称してミラノサローネと呼ばれています近年ミラノサローネは企業やブランドの見本市としても有名です

本展OVERTURE次代の照明への序曲)」ではLEDをはじめとする新しい光源の登場によって照明にもたらされるパラダイムシフトを表現しています人の動きに呼応しインタラクティブに動作するLEDオブジェと鏡のアーチが織りなす無限に広がる空間により照明のパラダイムシフトや新しい光のもたらす可能性が体感できようになっていますこの体験は単なるハードウェアによって提供される単純なを超越し人の感情や感受性を思い出す灯りを表していますひいてはあかり文化に対する東芝の献身を体現しさらには照明のイノベーションと人と光との新たな関係を追い求めるものです

新しい技術が古い技術を置き換えるとき一足飛びにそれが我々の生活の中に浸透することは実にまれですそのような場合は以前の技術が持っていた形状や体験を新しい技術が部分的に引き継ぐこともあります例えば車はかつて馬のいない馬車と呼ばれ人々はその存在を理解しましたさらにテレビは当初モニターが埋め込まれたキャビネットつまり家具として販売されましたそのようなプロセスを経て民衆の新技術に対するためらいは徐々に取り除かれていきますその点LEDも例外ではありません

電球のシルエットが持つイメージとその文化的な価値この形状に宿る文化の脈動は人の心の中に宿る灯りのイメージそのものですそして丁寧に扱うことを忘れるとともすると途切れてしまうかもしれない儚く無形のものでもあるでしょう灯りを取り巻くこのような言語化できない文化的な遺伝子の脈動を絶やさずに次の世代に引き継いでいくことはできるのでしょうか力強く進む技術革新の中でこの仄かな鼓動をLEDによって照らされる次の世代に託していくのは今を生きる私たちの一つの使命かもしれません

私たちがこの作品において描き出す世界は未来における灯りのあり方を予言する挑戦でも過去にすがる懐古主義的なオマージュでもありませんそれはむしろ新技術によって切り開かれ変容を続ける未来を見据えるための現在地の確認を行う行為でありこれからの方向を定めるためのひとつの宣言です

電球の丸みを帯びた形はこれまでの光の文化を表しています私達はこの物体を繊細な脈動と共に次の世代に渡す役割を引き受けましたあたかもこれが生き続けることを願うかのように両手でやさしく抱きかかえて

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空間構成と機能

各オブジェは天井から吊り下げられています天井近くに人感センサーとケーブル用のウィンチが設置されています人感センサーは近づいてくる人に反応して照明を点灯させますウィンチは当初はビジターが誤って電球を引っ張ってしまった際の安全対策として考案されましたしかし実際はウィンチと連動させ電球を一定の高さまで引き下げると電源が切れリセットされるという機能も合わせて実装しましたこれにより天井に機構部分がある従来の照明と比較してメンテナンス性が大幅に向上しています
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電球の部分に付随して東芝製のLEDセットが光源に利用されています2つの部品から成っておりひとつは強い白色発光LEDもう一つはそれよりやや小さい白熱灯の色に似たLEDです モーターにつなげたハンマーが金属製の筒の内壁を打つことで例の脈動を作り出しています 透き通るように輝くガラスですがこの製作は以前伊東豊雄さんと行った風鈴展の時と同じく墨田区の松徳ガラスさんにお願いしましたそもそも大正時代に電球用ガラスの製造を起源とした会社であるだけあって非常に丁寧に仕上げていただくことができました

ガラスの中の水には三つの意義がありますまず第一に美的な理由です人の触れる手に合わせて緩やかに動く水はガラスに新たなサーフェスを与え光の反射をより豊かなものにしますさらに大理石の砂の上に落ちる光を揺らめきによって演出します第二に技術的な側面この電球は人が触れることにより光と振動を発しますが水はこのとき実はセンサーとして機能しています通常のタッチセンサーなどの技術では不導体であるガラスに触れたことを感知するのは非常に難しいでしょうしかしこのシリンダーには静電容量の差分を感知する部品が内蔵されています水が静電容量を蓄えることで人の接触をきっかけとして動作します第三に水は文化的な遺伝子や灯りそのものの情緒感を湛える一つの象徴的なとして機能しています鼓動に代表される生命感を表現するためにその有機的な側面が生かされているとも言えるでしょう

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ガラスと筒状の部分の組み立ては非常に容易です見えないようになっていますがこのデバイスは磁石を利用することでねじやドライバーを使うことなく即座に組み立てられるようになっていますガラスと筒の両方の穴の位置が重なると棒状の磁石が挿入できそれが双方を固定しています同様に 分解も磁石一つで可能です 一つ来場者の方には秘密にしておいた機能としてモード変換があります筒の部分を特定のリズムでたたくと異なるモードに切り替えることができるのです色や明るさのパラメーターにより合計4つのモードが選択できます
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空間構成

この空間は一見無限に続く回廊のようにも見えますが実はアーチの中に切り抜かれて見える奥行のある風景はすべて鏡に映ったものですこのアーチ型の鏡床に敷き詰められた大理石の砂そして壁を覆ったモアレを生み出す空間を構成する3つの主な要素です
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ミラー

アーチ型の鏡は空間を囲むように並べられていますアーチは古くは紀元前から用いられてきた汎用性のある建築要素です現在アーチを必要としない構造の建物でも普遍的なアイコンの一つとしてその形状を目にすることができます一方茄子型の電球も同様に人の生活を支えてきたアイコンですこれらのシルエットはもはや具象的な意味を超えて人の記憶の中に象徴として存在しています展示空間は情緒的な記憶の継承を担った2つの普遍的なシルエットを重ね合わせることを基調としていますさらにアーチは隣り合う空間との結節点としても機能しますアーチ型の鏡は無限に広がる空間を投影しますが過去と未来の2つの儚さを繋げるためにも存在していますそして鏡は現在を投影するためにも存在しており現在地の確認という本店のテーマとも呼応しています
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砕かれた大理石の砂利

床に敷き詰められているのは大理石を細かく砕いてできた砂電球型オブジェの中に湛えられている水の揺らめきによって拡散する光を受け止める役割を担っていますフラットな床に落ちる光よりも表情豊かで有機的な光を映し出します更には砂利を踏みしめることによって人の歩みは自然とゆっくり落ち着いていくため人と光の関係をより純粋に体感させる効果があります
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Moiré Fabric

砂利を踏む感覚は本来は自然の中での経験であり予想もしない砂利が内部空間に広がっていることで来場者の多くは会場に足を踏み入れた瞬間足元に新鮮な違和感を感じます同時にアーチと砂という対照的な素材が内部と外部の関係を曖昧にし永遠と広がる抽象的で象徴的な空間を作り上げています
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最終案に至るまで

会場はデザイン・ライブラリーと呼ばれる施設ですこのロケーションに決定した開催以前の段階ではまだ鏡や砂利といったような具体的な案にはたどり着いてはいませんでした会場を視察した当初空間全体を有機的にくねらせた布で覆うような案や床にいくつものマウンドをつくる案などいろいろな可能性を模索していました最終的には展示のコンセプトとの整合性を考える中電球型オブジェの視覚的効果を最も高めることのできるアーチ型の鏡を使った案に至ったのです分散した合わせ鏡の効果は単純な矩形ではない入り組んだ形状を持つ場所の特性を生かすことのできる理想的な解法でした

鏡のアーチに至った理由には空間の連続性や情緒的な側面などのコンセプトに整合させたことはもちろん鏡を工場で単独生産するというプレキャスト施工の意図もありました工期の短いインスタレーションの制作方法として現場施工を極力無くした製作プロセスとなっています空間を構成する部品は鏡のアーチ壁を覆う布床に敷いた砂利と極端に削ぎ落とされています空間要素は限られたディテールで表現し人と光の関係を新鮮に映し出す空間を構成しています

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Project Information

Project Team

  • Art Direction: Toshiba Corporation
  • Product Design & Interaction Design: Toshiba CorporationTakram
  • Exhibition Space Design: Ryo Matsui Architects Inc.
  • Photograph: Daichi Ano
  • Exhibition: Milan (Italy) Tortona district Design Library, April 2227, 2009
  • © 2012 Toshiba Corporation

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