Apple Vision Pro向けのアプリの開発
コロナ禍以降、加速度的にリアルとバーチャルの境界が溶け、ECサイトの活用が瞬く間に社会に定着していきました。一方で、リアルでは当たり前であった友人や家族、ショップスタッフとのコミュニケーションの機会が減り、買い物そのもので得られる体験価値の低下が課題として浮き彫りになってきています。
こうした課題に、TOPPANはバーチャル空間上に店舗を構築しながらも、リアル店舗とも連携して相互に行き来できるメタバースショッピングモール「メタパ(Metapa)」を開発しました。Takramは、コンセプト策定の段階から伴走し、研究開発をサポートしています。
Apple Vision Pro向けアプリの開発
今年2月に米国で先行販売され、話題を集めたApple Vision Pro。このウェアラブルデバイスは、デジタルコンテンツを物理空間にシームレスに融合する空間コンピューティングとして注目されています。
Takramは、Vision Proの国内販売のタイミングに合わせ、「メタパ for Vision」の企画と開発をサポートしました。早い段階からシミュレーターや実機を用いてリサーチや技術検証を重ね、Vision Proならではの新しい買い物体験を追求しました。
Vision Proは、物理空間や環境光をシミュレートすることで、バーチャルな物体を現実空間内にまるで実在するかのように提示できます。「メタパ for Vision」ではこの特徴を活かし、バーチャルな商品や空間をミニチュアの店舗から自分の部屋に持ち込んで、五感で「感じて楽しむ」ことができます。ユーザーが部屋に持ち込んだアイテムは、現実空間に馴染むように環境光で照らされ、自分の部屋と物理的に干渉させることができます。
また、従来のHMD(Head Mounted Display)のような完全没入型のデバイスではなく、現実世界や複数のアプリを同時に”ながら”で体験できるマルチタスク性の高いデバイスであることにも着目しました。「メタパ for Vision」では聴覚による”ながら体験”として、ミニチュアの空間内を散策していると、ラジオ番組の音やNPC(Non Player Character)たちの雑談が聞こえてきます。ユーザーが自然と商品や店舗などの情報を「知って楽しむ」体験をつくりました。
そして、“ながら”体験ができるマルチタスク性を活かすには、アプリ全体の体験の流れを設計する際に冒頭から没入体験させるのではなく、現実の体験から始めて徐々に没入感の高いキーモーメントに導くことが重要になると考えました。
「メタパ for Vision」では、まず部屋の中に現れるミニチュアの空間で「知って楽しむ」体験を提供し、ユーザーが徐々に没入してきたら「感じて楽しむ」というキーモーメントに導く設計になっています。さらにキーモーメントが一段落したら、ユーザーは体験の感想をコメントやエモートで残して、他のユーザーと「繋がって楽しむ」こともできる予定です。空間コンピューティング特有の体験カーブに沿うかたちでアプリをデザインすることで、新しい買い物体験の可能性を探求しました。
「楽しむ」ことを起点に、ユーザーとブランドを繋げる
メタパが当初から掲げるコンセプトの一つである「ハイテク・ハイタッチ」はそのままに、いかにしてテクノロジーを活用してヒューマンタッチな体験をつくるかが、今回の開発でも重要なポイントでした。ECサイトのように整理された商品を検索して探すのではなく、空間コンピューティングによる体験を「楽しむ」うちに、自然と気になる商品や店舗と出合うことをめざしました。
店舗の中には商品だけでなく、回して遊べるガチャガチャや、つまんで動かせる店舗スタッフ等が配置されています。また、店舗内は自由に歩き回るアバターたちで賑い、突発的に起こる雑談にはつい耳を傾けてしまいます。他にも、ラジカセから流れる音声には、ローパスフィルタやノイズ加工を用いてよりラジオらしい演出をするなど、遊び心や好奇心をかき立てるギミックを数多く仕掛けています。
メタバース・VR・空間コンピューティングなどの体験は、ユーザーが静かな空間の中で孤立しやすいという共通の課題を抱えています。これに対し、メタパは体験にさまざまな変化や遊びを加えることで、偶然の発見やNPCとの出会いなど、多様な文脈でユーザーが「楽しむ」きっかけを提供し、ユーザーとブランドが繋がる機会を創出します。
Project Information
Project Team
- Project Direction: Masato Nomiyama
- Project Advisory: Hisato Ogata
- Software Engineering: Masato Nomiyama
- UI Design: Kosuke Futsukaichi
- Technical Research: Masakazu Ozaki (Takram Intern)