ハサミのデザイン
Takramは、コクヨ株式会社(以下コクヨ)のハサミ「HASA」のプロダクトデザイン(HASA-001)、及びブランドコンセプトの構築を担当しました。
「HASA」は、ユーザーが永く使うために切り心地を正直に追求することをコンセプトとしたハサミです。
永く使うために「正直」を追求するハサミ
Takramとコクヨのプロジェクトチームでは、コクヨの新たな高価格帯のハサミおよびハサミブランドをつくるにあたり、道具との生活に質の高さを求めるユーザーをターゲットユーザーとし、きめ細かなリサーチを重ねて来ました。
リサーチでは、ハサミというものがユーザーのもとで十年・数十年と使われ続けることが珍しくなく、暮らしの一端を永くかたちづくる道具でもあることがわかりました。
また、ユーザーの傾向で目立ったのは、見せかけの機能でものを選ばないという点です。店頭などで機能を伝えやすくするために施されたプロダクトの造形が、必ずしも永く使う道具には適していないということをユーザーが感じ取っていることもわかりました。
こうした背景から、プロジェクトでは、永く使うために優れた切り心地や握り心地を追求し、経年劣化の少ない材料や加工を選択し、生活空間と調和し、奇をてらわず古くなりづらいスタイルで、機能の誇張をしない「正直」を追求するハサミをつくることを目標としました。
ハサミの原理と向き合ったブランド構造
HASAの製品は、高価格帯ならではの加工・パーツを採用し、コクヨの設計エンジニアリングと貝印の製造技術によって素晴らしい切れ味を実現しています。
しかし、ハサミの原理上あらゆる対象に最も優れた切れ味をもたらす万能な刃の設計というものは存在しません。紙を真っ直ぐ切るなどの繊細な作業には直線的な刃の形状が適しており、分厚いダンボールを軽い力で切るためにはカーブ状の刃の方が適しています。
HASAでは、ハサミの刃に万能な設計はないことや、刃の設計には性能の相反関係があることに対して正直に向き合い、プロダクトブランドとしてひとつの刃の設計にこだわらない姿を目指しました。
シーンに応じた異なる刃の設計のプロダクトが集まり、それらがブランドのファミリーを構成することで、様々なシーンにおいて優れた切り心地をユーザーに提供することを目指しています。
細部にわたる造形の追求
HASAの造形は、多くの形状検討によってまとめられました。
生活空間におけるハサミの印象として、正面から見える姿は奇をてらわない正直なシルエットを目指しながら、厚さ方向の造形で握り心地の良さを追求しています。
グリップは、主に側面側の面と、正面・背面側からなる2種類のなめらかな面によって構成されています。
側面側の面は、人の指が触れる部分として肌触りの良さやユーザビリティを考慮し、正面・背面側の面は、生活環境と調和する部分として落ち着きがあり傷の目立たないテクスチャを選択しています。
多様なラインナップに対応するデザイン言語
プロダクトごとに異なる設計のブレードに対し、グリップ部などの形状は共通のデザイン言語で統一しています。
シルエットと稜線、及び特定箇所の断面の定義を行いながら、有機的な造形に着地する汎用性の高い造形言語で、様々なタイプの製品化に対応します。
これにより、HASAのどのプロダクトでもHASAらしい握り心地を再現し、HASAブランドのアイデンティティに一貫性を持たせることを目指しています。
永く愛着の持てるスタイル
Project Information
Project Team
- Project Direction: Sho Tanaka
- Concept Development: Sho TanakaDaiki Nakamori
- Product Design (HASA-001): Sho TanakaDaiki Nakamori
- Photography: Shinya Sato (Shinya Sato Photography Office)
- Retouch: Yosuke Mochizuki (tecono.inc)